カラオケ店火災で、女性アルバイト店員に対する業務上過失致死罪での実刑判決は不当判決だ! ~ 低賃金のアルバイトに正社員並の過剰責任を負わすのか!
兵庫県宝塚市のカラオケ店で今年1月、 客8人が死傷した火災で、(3名が死亡) 業務上失火と業務上過失致死傷の罪に問われた 同店の元アルバイト女性店員佐々木美津子被告(35)の判決が 22日、神戸地裁であり、 佐野哲生裁判長は禁固1年6カ月(求刑禁固3年)の実刑を 言い渡した。
私はこの判決を聞いたとき、厳しすぎると思った。 もしかしたら、業務上失火は成り立つが 業務上過失致死傷罪は成り立つのかは疑問であったし、 業務上過失致死傷罪は成り立っても、 彼女の責任の度合いは低いと思うからだ。
責任の重さで言うと、経営者と、そして、刑事訴追されていないが 行政にもあると思うのだ。
さて、この火事が発生したカラオケ店の店舗の構造そのものに 問題があった。
建物は1981年に新築され、市に届けられた用途は 「倉庫・事務所」であった。その後、釣具店、コンビニ店を経て 1989年12月に上江洲店長が建物を借りてカラオケ店を開いて、 カラオケ店になり、建造物を改装していくが、 消防法違反、建築基準法違反・ 宝塚市火災予防条例違反がいくつもあった。
○条例違反 条例に基づく、「遊技場」への用途変更がない。
○消防法違反 遊技場は面積に関係なく各階に消火器が必要であるのだが、1階しかなく、非常口への誘導灯がなかった。
このカラオケ施設は収容人数は60名と想定されるが、収容人員が50人を超える遊技場には非常ベルの設置義務があるが、非常ベルがなかった。
2階建てのこのカラオケボックスには、2階と1階との間の階段が1箇所しかなかった。10名以上収容できる施設で、直通階段が1箇所しか ない場合は避難器具の設置義務があるが、それがなかった。
収容人員30人以上で、防火責任者を選任する義務があるが、そうされていなかった。
○建築基準法違反 このカラオケボックスの2階は窓がなかった。そのような「無窓階」の場合には、排煙設備が必要であるが、それがなかった。
このカラオケボックスでは約21平方メートルの増築があったが、10平方メートル以上の増築時に届けが必要があるのに、届けがなかった。
このように、このカラオケボックスの建造物そのものに違法性があり、かつ、火災を大きくさせてしまう構造になっていた。この責任は、アルバイトの佐々木さんではなく、経営者にある。
そして、なんと、 このカラオケ店の土地・建物の所有者は 宝塚市消防本部消防士長の義父であり、 かつ、 宝塚市消防本部の職員が、業務以外のプライベートタイムの時であるが、このカラオケ店に多く訪れていながら指摘や 改善勧告もしていなかったのだ。
つまり、行政が見過ごしてしまっていたのだ。
そのような中、2007年1月20日悲劇は発生する。 火災が発生するのは当日の18時30分ごろである。
この日、佐々木さんは18時から(または20時) の出勤予定であったが、 経営者店長から頼まれて13時から出勤していた。
本来、忙しくなる18時ごろには店長が戻ってくる予定であったが、 店長は「佐々木さんなら1人でも大丈夫だろう」と 遅れて18時には店に行かなかった。
しかし、そのころには17名のお客さんがいて、 受付・調理など、佐々木さんは一人で多忙にしていたのだ。
この時、佐々木さんは、中華鍋にサラダ油を注いで、過熱していた。 そして、食器を手洗いしようと食器を洗い始めた。 この食器の洗い場が、台所の外にあったのだ。 つまり、建物構造上、店員が調理場から目を離しやすく なっていたのだ。 そのようなところで、食器洗いをしていたところ、 すると、お客さんから次々ドリンクの注文がきたので、 それに対応していたところ、中華鍋のサラダ油の過熱の ことを失念してしまい、ついに、加熱中のサラダ油から出火、
1階にいた客の会社経営の男性(64)のところに、 (多分、常連客だと思う) 泣きながら 「フライパンから火が上がった」と駆けつけ、 助けを求める。 佐々木さんは消火器を使おうとしたが、使い方がわからず、 客に渡したもののガスが抜けていて作動しなかった。
そして、火は広がり、2階にいた3名が一酸化炭素中毒で なくなった。
弁護側は業務上過失致死傷罪について「正常な消火器があれば、火災は起きなかった」として、失火と死傷の因果関係を否定したが、
佐野裁判長は「そもそも油の加熱を忘れるという被告の過失がなければ、火災で死傷者は出なかった」
判決理由について佐野裁判長は
「やかんの空だきなどを経験したが何の工夫もしておらず、防火意識に欠けていた」と指摘。「火災になれば二階からの避難は難しいと認識していたが、 最優先で客らに呼び掛けることをしなかった」とした。
私はこの判決理由や量刑について大いに疑問に感じる。
「そもそも油の加熱を忘れるという被告の過失がなければ、火災で死傷者は出なかった」
というが、 火災が発生しても、経営者がきちんと消防法・建築基準法に基づいて きちんと建造していれば、死亡者がでなかったのではないか?
法律では 「無窓階」の場合には、排煙設備が必要で、もしそうなっていれば、 煙が屋外に出て、一酸化炭素の濃度が低下していたかもしれない。
また、 2階建てのこのカラオケボックスには、2階と1階との間の階段が1箇所しかなかった。10名以上収容できる施設で、直通階段が1箇所しか ない場合は避難器具の設置義務があるが、それがなかった。
もし、縄梯子などあれば、2階で死亡した方々は地上に避難できた可能性がある。 この避難器具の設置義務の責任はアルバイトの佐々木さんではなく、経営者にあるのであり、逃げ遅れて死亡したのであるとすれば、責任は佐々木さんではなく経営者ではないか。
「火災になれば二階からの避難は難しいと認識していたが、 最優先で客らに呼び掛けることをしなかった」
とあるが、とにかく消火器で火を消そうとしたのだ。店員が1名しかいない中、とにかく、火が大きく広がっていなければ、その火を消そうとするのが普通であろう。しかし、消火器が不良で、消化剤が出てこなかった。
この時点で消火が無理とわかって、2階の客に知らせる手順になると思うが、もし、法律通りに非常ベルがあれば、2階の客に知らせることができたはずだが、非常ベルがなかった。非常ベルがあれば、とにかく火が出た時点で非常ベルを鳴らスことが可能で、それによって、死亡した3名が気がついて、死亡することなく脱出できた可能性がある。しかし、非常ベルが設置されていなかったため、それができなかった。 それは、アルバイト店員の佐々木さんの責任ではなく、経営者の責任である。
「やかんの空だきなどを経験したが何の工夫もしておらず、防火意識に欠けていた」 「そもそも油の加熱を忘れるという被告の過失がなければ、火災で死傷者は出なかった」
と裁判長が指摘しているが、やかんの空焚きを経験しても無策であったことを理由にすることは最もらしく聞こえるが、さてどのような工夫ができるというのだろうか?油を加熱する場合は、油から目を離さないとか、タイマーを設置して、アラームを鳴らすようにするとかになると思うが、アルバイトの店員に何処まで責任を負う義務があるのだろうか? それは、店主の経営者の責任が大きいのではなかろうか?
また、そのようなやかんの空焚きというヒヤリハット体験によって、 防火対策を取るための感受性教育を経営者がしていたのであろうか? そのような教育がない中では、 タイマーアラームを設置するという発想が 佐々木さんに出てこなかったかもしれない。 きちんと、防災教育を受けていない中、 アルバイト店員にそこまで義務を 負わせるべきなのであろうか?
「そもそも油の加熱を忘れるという被告の過失がなければ」 とあるが、
油の加熱中に 食器洗いをしていて、かつ、ドリンクの注文が次々と入り、 その間に出火してしまったのであるが、 食器の洗い場が、台所の外にあったのだ。 つまり、建物構造上、店員が調理場から目を離しやすく なっていたのだ。
そのような構造であれば、油の加熱のことが 意識から外れやすくなり、失念しやすくなるのは 普通である。 このような建物の構造にしてしまった事に関しては、 アルバイト店員ではなく、経営者の判断によるものではないか。
そして、そのような状況で、次々と注文が入れば、 目先のことに追われることは、ヒトの性質としては 自然なことであり、加熱している油のことを失念しやすく なってしまう。 建物の構造上、洗い場と調理場が離れていれば、なおさら 失念してしまう。このような状況では、ミスが起こってしまうのは 不自然ではない。
事故が発生しやすい状況であれば、そうならないような 状態にしていくのは、アルバイトの責任というより 経営者の責任であろう。 そして、この時は、1人で17人の客に対応するという 1人でこなすには過剰な負荷がかけられていた。 このようなときに、火災が発生したら、 一人で全て対応するのは困難だ。
以上、建物の構造や当時の状況など これらのことを考えると、 このアルバイト店員の佐々木さんが失火してしまったとしても、 建物の構造が法律通りに防災対策がなされていれば、 死亡者が出なかった可能性が大いにあり、かつ、 避難誘導したとしても、建物構造上、避難不能になっていた 可能性があり、その違法な建造物設置の責任は経営者にあり、 アルバイトの佐々木さんの失火によって、業務上過失致傷罪に問うのは おかしいのではないかと思う。
そして、佐々木さんは防火責任者でもなく、 おそらく、消火器使用や避難に関しての 防災訓練や教育を受けていないと考えられる状況において、 重い刑事責任に問うのは疑問に感じる。
この実刑という判決は、遺族の厳罰要求に引きずられたのかもしれない。
遺族の父親の一人が、初公判後の記者会見で 「(被告人らに)殺されたと思っている。悔しい」と発言し、 同じ方が、公判の意見陳述で
「被告は店内にいた息子をほったらかして逃げた。目の前に息子を殺した相手がいるのに何もできない悔しさを理解してほしい」
と主張した。
さらに別の遺族の方が 「消火器が使えないなら、避難誘導を優先してくれれば死ぬことはなかった」 とも主張している。
その遺族の厳罰要求に裁判官はなびいたかもしれない。
「被告は店内にいた息子をほったらかして逃げた。」と 遺族の方は主張する。大事な息子を17歳で失った無念・悲しみ・怒りがあり、いろいろ思うことがあると想像しますが、 私は、被告はほったらかしたとは思えない。
火災発生後、佐々木さんから助けを求められた男性客が 火が天井にまで達していたため、 1階にいた客4人に伝え、佐々木さんが2階に向かおうとしたが 避難させたという記事があった。
もし、仮に、佐々木さんが2階に向かっていれば、 彼女も一酸化炭素中毒で亡くなっていた可能性がある。 彼女が亡くなっていれば、火災の真の原因はわからず、 後の再発防止の教訓を得ることはできなくなったかもしれない。
佐々木さんは、真面目な人だと思える。 初公判の検察の 起訴状朗読の際、終始嗚咽を漏らしながら手で涙を拭っていた。閉廷の際は深々と頭を下げていたという。
そして、一生かけても補償はしていきたいと述べたという。 ただ、彼女の立場からすれば、厳しいかもしれない。
そして、佐々木さんは 「遺族の 気持ちを考えると控訴はできない」と 1年6ヶ月の禁固刑を受け入れるという。 未決拘留期間が230日と7ヶ月以上になっているので、 実際は9ヶ月。また、彼女は場合は真面目に刑務所で過ごしそうなので、早く、仮釈放されるかもしれない。 禁固刑では、懲役ではなく労役はないが、禁固の場合は 檻の中で、まる1日中いることになるので、それでは、苦痛なので、 懲役刑者と同じく、刑務所内で労役をすることが多いという。
女子刑務所は、入ったばかりの時、先輩の受刑者からのいじめの 洗礼を受けることが普通なので、 佐々木さんにとっては精神的にきついだろうなあと思う。
それにしても、この判決の論理がまかり通ると アルバイトは正社員よりも低賃金で働いているのに、 正社員並の責任を負わされることになる。
やはり、この判決内容に疑問を持つ方が多くいるようで、
2ちゃんねるの 【裁判】宝塚カラオケ店火災客死傷事故 元アルバイト店員被告(35)に禁固1年6ヶ月判決 弁護側「控訴はできない」 神戸地裁
のスレッドでは、
61 :名無しさん@八周年:2007/10/23(火) 13:50:52 ID:e1bMRCDV0 これからはどんどんこういう流れになっていくんだろうな・・・。 バイトにも民事刑事の責任をガンガン負わせていく。 賃金面では奴隷なのに、責任だけ重大。
65 :名無しさん@八周年:2007/10/23(火) 13:56:21 ID:Rdmz3wuQ0 アルバイトにここまで責任を負わせるのか 給料安くて社会保障は無いけど責任は正社員並みに背負ってもらいますよと いやあ美しい国だ
と皮肉交じりの批判がなされている。
私もこの判決には疑問を感じる。 今の格差社会と言われ、パート・派遣・アルバイトが 正社員並に働いても、同じ給料を得れない状況において、 このような判決が出れば、アルバイトに過剰な責任が 負わされることとなり、格差社会を助長することにつながるように 感じる。 この裁判官は世間知らずなのではないかと思う。
この判決は、控訴すべきものだと思う。それは アルバイト・パートの正当な権利を守るためでもあると思うのだ。 伝わってくる佐々木さんの人柄からすれば、控訴しないように 思うが、弁護士が説得して、控訴に持ち込んで欲しい。
この判決が判例になれば、 アルバイトをしている学生・フリーター、 家計の足しにパートをしている主婦に過剰な責任が負わされる 社会になっていくことになる危惧を感じるのである。
パートに出ている主婦などが、過剰な業務上過失致死罪の 責任を負わされ、刑務所行きということが多発する事態を 懸念する。
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